「桜」 - 美しさの先に。
その美しい花の季節の後、大地に散った数え切れない花びらを何を見て、人は何を思うのでしょうか。
私が地上に散った無数の花びらを作るのは、花そのものではなく、華やかな桜花を支えていた枝や幹、そして次世代に命をつなぐ要でもある蕊(しべ – 雄しべや雌しべ)に思いを馳せるためです。
桜蕊降る(さくらしべふる)は晩春を表す俳句の季語です。
多くの人にとっては花の季節が終わり興味を失うときでもありますが、枝に残った赤紫色の蕊が降る晩春や、新緑の季節に思いを馳せることで命のつながりを感じたい。目には見えない過去や未来に想いを巡らせたいとの思いから生まれた作品です。
多くの日本人にとって桜、特に染井吉野(ソメイヨシノ)は特別な存在です。入学や卒業、出会いと別れの季節にまるで短い命を謳歌するかのように咲き乱れるこの花は人々に愛され、日本の春の風物詩となっています。
作品「桜」は、塩の花片をひとつひとつかたどって積み重ねたインスタレーションです。花びらは数万から十数万個にものぼり、重なり合った無数の塩のかけらは美しさと儚さを醸し出しています。