「揺らぐ死生観」形に  ~命や死 作品で追求~ 若生高行

2000 若生高行 ”読売新聞”

 金沢市在住の現代アーティスト・山本基がインスタレーション「めいそうの大陸」(一辺5メートル、高さ2.3メートル)を制作した。金沢市民芸術村(同市大和町)のレンガ建築の中に、真四角に組まれ、茶褐色に錆びた鉄の板。その一辺の深い切り欠きの奥には、まぶしい純白に縁取られた入口が開かれている。俯瞰すれば、続く通 路は複雑に蛇行しながらも出口とおぼしき場所には行き着くはずのないことに気がつく。「揺らいでいる死生観」に形を与える試みという。
 山本は66年、広島県尾道市生まれ。造船所勤務を経て金沢美術工芸大学に学んだ。そして卒業を翌年に控えた94年、実妹が脳しゅようで他界したのをきっかけに、「命」や「死」といったコンセプトを追求した作品を発表し続けている。
 94年の「存在94-18」では、「魂が抜ける瞬間の驚き」を緑青の上に乗せた枯れ枝で表現。98年の「記憶への回廊」では、金沢市広坂の金大付属小中学校の旧校舎を利用。わずかに開いた教室の扉の奥に塩の階段を組み込んだ。階段は頂点で終わる。廊下の外壁のはがれ方、固着させた塩という構成は今回の作品に非常に近い。そして一連の作品構造に共通 するのは「どこにもいけないということ」(山本)。
 その構造をたどれば、まるでフリッパーをすり抜けたピンボールの玉のように、ある瞬間、まったく一方的に一辺が消える。今回のインスタレーションでも、その通 路は「先は見えず、誰も導いてはくれない」(同)。魂は軌跡だけを残し、行き先を失うのだ。
 錆びた鉄の壁の内部に張り付けられたのは、電子レンジで約30センチ四方ずつ焼き固めたという塩。総量 は2トンに及ぶ。山本は「塩は普遍的な素材。”死”と直結する素材で、日本以外の国でも意味を持つことが多い」という。  インスタレーションは「世界旅行」というタイトルの下、金沢出身の現代アーティスト・一瀬圭介、新保裕とのコラボレーションにもなっており、25日までそれぞれの世界観を堪能することができる。(文中敬称略)

若生高行 読売新聞

世界旅行展 金沢市民芸術村、石川

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次